タバコや航空宇宙・防衛セクターを除外したポートフォリオは運用成績を低下させる?

この記事は、アンドリュー・アング著『資産運用の本質―ファクター投資への体系的アプローチ』を題材に作成された第2弾の記事です。

第1弾オルタナティブ投資を始めた大学基金の運用成績はどうなった?


タバコや航空宇宙・防衛セクターを除外した影響は?

道徳的に問題含みなタバコや航空宇宙・防衛セクターの過去のパフォーマンスは市場平均と比較すると、非常に良好なものです。

タバコセクター(全世界)

2016年末からさかのぼった過去10年のMSCI Worldのパフォーマンス(年率換算)は1.67%だったのに対して、世界のタバコ企業7銘柄から構成されるMSCI World Tobaccoは8.54%と圧勝しています。

出典MSCI WORLD TOBACCO INDEX (USD)

航空宇宙・防衛セクター(アメリカ)

航空宇宙・防衛に投資するETFのITA(iShares U.S. Aerospace & Defense ETF)が連動対象としているインデックスのDow Jones U.S. Select Aerospace & Defense Indexも過去10年のS&P 500のトータルリターンを年率換算で5.85%上回る優れた成績を上げています。

出典S&P Aerospace & Defense Select Industry Index – S&P Dow Jones Indices

ノルウェーの政府系ファンドやカリフォルニア州政府職員退職年金基金(CalPERS)、カリフォルニア州教職員退職年金基金(CalSTRS)では、タバコ会社の株式を一切保有していません。

また、ノルウェーのファンドでは、核兵器やクラスター爆弾の製造にかかわるすべての企業を投資対象から除外しているため、航空宇宙・防衛産業に対するカバー度合いは弱くなっています。

タバコや航空宇宙・防衛セクターに自由に投資できない縛りをかけられたファンドは市場ポートフォリオからの劣後が避けられないと、私のような思い込み先行型の投資家は考えてしまいますが、理論上は誤差程度の影響しかありません。

39業種からなるFTSE全世界指数から、タバコや航空宇宙・防衛セクターを除外した結果、ボラティリティとシャープ・レシオがどのように変化するかが下の表で示されています。

ボラティリティの増加度合いは拍子抜けするほど少なく、シャープ・レシオの悪化も全く意味を成さない程度に収まっています。

分散投資効果の低下は非常に小さいが、これは38業種から39業種、もしくは36業種から39業種に移行することで得られる分散投資効果が極めて小さいためである(思い出してもらいたいが、分散投資の限界効果は減少していくのである)。

冷静に考えてみれば、当たり前のことですが、株式投資における分散効果は銘柄数を増やせば増やすほど、減少していきます。

比較元のFTSE全世界指数では、高度に分散が進んだ結果、タバコ企業や防衛企業がポートフォリオに与える好影響が無視できる程度に少なくなっていたのでしょう(そのため、除外しても悪影響が出ない)。

タバコや航空宇宙・防衛セクターに投資ができないという縛りをかけたくらいでは運用成績に明確な悪影響は出ない、という新しい学びを得ました(ノルウェーやCalPERSの運用成績が、市場平均と比較して、実際のところどうなっているかはまた別の話でしょうが)。

パニック売りは個人投資家の専売特許ではない

2008年および2009年の期間、多くの年金基金と財団はパニック売りに陥ってリバランスを放棄したが、カリフォルニア州政府職員退職年金基金(CalPERS)の失敗は際立つ。CalPERSの株式ポートフォリオは2007年の1,000億ドル超から2009年には380億ドルまでに縮小した。CalPERSは逆張りリバランスの反対、すなわち順張りリバランスを行い、ちょうど最安値で、まさに期待リターンが最も高いときに株式を売却した

株は高くなると将来的な期待リターンは低くなり、安くなればなるほど将来的な期待リターンは高くなる傾向があります。

人間心理は不思議なもので、株が高くなり、期待リターンが低下すればするほど、市場への注目が集まり、新規参入者が増えていきます。

その一方で、2008年から2009年のような劇的な暴落相場に見舞われると、蜘蛛の子を散らすように投資家が撤退していき、市場が閑散としてしまうのです。

「資本主義は終わった」と世界経済崩壊への不安をマスメディアが煽っているときほど、株式のリスクプレミアムが高まるタイミングはありません

CalPERSとは対照的に、ノルウェーのソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)は、この暴落期に株を購入するリバランスを行ったようです。

ノルウェーはマストに縛り付けられたユリシーズを地で行くかのように、リバランスの意思決定を委員会に任せるのではなく、財務省と議会がリバランス・ルールを決定した。ファンド・マネージャー(NBIM:ノルウェー中央銀行投資管理部門)によって自動的に執行されるルールを適用することで、リバランスの意思決定が、パニックや恐怖、傲慢によって動揺する可能性のある委員会に託されないことが保証されていたのである。

CalPERSとノルウェーの事例は、平時のうちに、リバランス・ルールを厳格に策定しておくことの大切さをインデックス投資家に教えてくれますね。

安部政権下で株式のウエイトを高めた日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、次の暴落局面で「パニックや恐怖、傲慢によって動揺」した大衆と野党からの強烈なバッシングにさらされるでしょう。

しかし、そのような局面でこそ、淡々と事前に策定したポートフォリオに基づいてリバランスを実行することが重要です。

大衆の感情に基づいた投資行動は、結果的に高値売りではなく、底値売りをもたらすでしょうから。

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